吉村道明とハリー・レイスの30分1本勝負、バケツか一斗缶で殴り合い

吉村道明

アントニオ猪木で育った世代の私にとって、吉村道明は既におじさんだった。顔も地味だった。

プロレスを見始めた頃、吉村は42歳になっていて、少しお腹も出ていた。

私も子どもだから、外人レスラーにやられっ放しの吉村は弱いレスラーに見えた。まさに、猪木の引き立て役。

だからこそ、猪木&吉村のアジアタッグタイトルマッチは名勝負が多かった、と思う。

やられっ放しだった吉村が、決勝の3本目に回転エビ固め、もしくはドロップキック一発で相手からピンフォールを奪う、という展開が特にスカッとした。

まず回転エビ固めは、その回転のスピードと相手との密着度が秀逸だった。

ロープに振って、ショルダースルーを狙う相手レスラーの背中に沿って回転する、その速さと回転する円の直径の小ささ。これは見てみないことには実感できないだろう。

劣勢からの大逆転。吉村の回転エビ固めは、ほとんど返されることは無かった。

というか、相手はほぼ垂直に固められて、返せそうにもなかった。

ピンフォールされるに値する説得力のある、そんな丸め込み技だった。

そしてドロップキックも、1ミリもブレない正面飛び。さらに捻らずに、正面のまま受け身を取る。

足は見事に両足がピタリと揃い、レスリングシューズが2足、本当にキレイに相手の顔面を蹴り上げた。

ジャンプ力と、空中姿勢の安定感。本当に吉村の体は真っ直ぐになっていて、頭の位置も高い、バランスの良いドロップキックだった。

相手レスラーの顔も大きくのけぞる衝撃度で、私はジャンボ鶴田、初代タイガーマスクに並ぶ、3大ドロップキックと思っている。

重役レスラーであり、マッチメイカーでもあったし、元々がエースを立てるポジションのレスラーだったので、42歳という年齢以上に前に出ない感じだったのだろう。

カール・ゴッチやキラー・カール・コックスといった、一撃必殺のフィニッシュホールドを持つ外人レスラーの初来日時、来日第一戦の相手は吉村が務めた。

吉村がレスラーとして、いかに信頼されていたかが分かる。

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アジアタッグに話を戻すと、多くの名勝負の中でも、ドリー・ファンク・ジュニア&ハーリー・レイスとの試合は素晴らしかった。

そしてレイスとの抗争・・・抗争というか、30分1本勝負を2回見た記憶がある。

私がプロレスを見始めた頃、「プロレスは凄い」と思わせたのは、ヒロ・マツダVSダニー・ホッジと吉村道明VSハーリー・レイスだった。

昭和44年、当時9歳だった。時を経て、やっぱり凄いと今も変わらず思っている。

さて吉村VSレイス、吉村もレイスも最上級のレスリング技術に裏打ちされた、玄人受けするレスラーのイメージがある。

試合も、そういう最高のテクニック合戦かと思いきや、凄い乱戦となった。

もちろん序盤は違ったと思うが、中盤からヒートアップした展開だった。

レイスは当時26歳、NWA世界ヘビー級王座を奪取するのは3年半後のこと。

このシリーズはNWA世界ヘビー級のドリーと、同じくジュニアヘビー級のホッジという、二人の世界チャンピオンが参加した。

インタータッグもドリー&ホッジが挑戦し、レイスは引き立て役、まさに日本側の吉村的ポジションだった。

とにかく、試合は激しかった。そしてスウィングしたというか、吉村がどれだけラフファイトにも強いのかというところを見せた試合だった。

言うまでもなく、レイスはラフに強いレスラーだ。確か、二人とも流血していたと思う。

終盤では椅子が持ち出され、お互いの頭を叩き合い。

それでも足らず、最後は真鍮のバケツか、もしくは油用の一斗缶の空き缶で、思いっ切りの脳天叩き合戦。

怒りの混じった嬉々とした表情で、レイスの脳天をバケツだったか、一斗缶だったか忘れたけど、最上段に振りかぶって叩きつける吉村道明。

普通の気の良いおじさんっぽい吉村が、怒るとこんなになるんだ、プロレスラーはこんなことをするんだと、小学4年生の男子はその時思った。

プロレスラーの凄さを最初に感じたのは、馬場でも猪木でもなく、吉村とレイスとマツダとホッジだった。

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