今から20年前の11月場所のこと、その日の大相撲中継は福岡県出身の俳優、黒木瞳がゲストだった。
大相撲ファンで知られていた黒木瞳は、生で見た大相撲の感想を問われ、
「大相撲さんの体って、テレビで見るよりも、キレイだなぁと思いました」と答えた。
これを受けて、アナウンサーは「そのキレイな力士たちの中でも、最も美しいといわれたのが、ここにいる北の富士さんです」、と返す。
すると解説の北の富士は、「30年経ったら、ただのオジサンだけどねぇ」と、まんざらでもない感じ。
最も美しい力士だった、という部分は否定しなかった。
先日、ライバルだった玉の海を「絵に描いたような、美しかった四つ身」と表現したけれど、北の富士の場合は、その容姿と相撲振りの美しさだ。
容姿の話は割愛するが、その相撲は美しいというか、華麗で派手な取口だった。
玉の海の美しさを一幅の絵のようだと形容するならば、対して北の富士は動きの中での美しさ、一編の動画として美しさを持っている。
左を差し、右上手を引いての速攻。一気の出足からの、上手投げや外掛けが鮮やかに決まった。突っ張りも速かった。
北の富士は足が長く、力士体型とは言えなかった。がっぷりになれば、大関の大麒麟や関脇の長谷川にも分が悪かった。
北の富士はがっぷりに弱いのを自覚し、しばしば大相撲中継で「自分は横綱相撲は取れなかった」と語っていた。10回優勝していても、謙虚だった。
北の富士の現役当時の解説者、玉ノ海梅吉からは「底の浅い現代相撲」、とまで言われた。
それでは、なぜ10回も優勝できたのか。
まず左が堅く、右四つになることは極めて少なかった。そして相手力士に上手を引かせないし、引かれても廻しを切るのが巧かった。
そして、上手投げや外掛けの切れ味の良さ。突っ張りの回転の速さと、「黄金の引き足」・・・。
がっぷり四つ以外の相撲は、本当に素晴らしかった。
対照的な玉の海とは、その取口の違いから大熱戦は少なかったが、それもまた味がある勝負だったと思う。
攻め中心の相撲は、足腰の良い力士とは白熱の大相撲となり、特に新しい波となる貴ノ花や輪島とは、スリリングな勝負を展開した。
物言いがつく相撲も多かった。北の富士VS貴ノ花、北の富士VS輪島は、8日目の日曜日の黄金カードとして組まれることが多かった。
格好良いと言えば、浴衣姿のセンスの良さ、渋い緑色の締め込み等、いちいちが格好良かった。
そして塩をまくとき、塩に正対せず、右足だけを前に出して塩をつまみ、野球のサイドスローのような塩まきも雰囲気があった。
この塩まきスタイルは千代の富士や千代大海にも引き継がれた、というか、さらに手首が高くなっていった気もするが。
相撲解説も粋だった。粋な解説って何、という感じだが、北の富士のような解説を粋と呼ぶ、で良いと思う。
もちろん歌も。
私が最初に買ったレコードは、森進一と北の富士だった。



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